発表

1PM-100

宗教性と社会的優位性の初期発達

[責任発表者] 孟 憲巍:1,2,5
[連名発表者] 中分 遥:2,3, [連名発表者] 橋彌 和秀:2, [連名発表者] Emily Burdett#:3,4, [連名発表者] Jonathan Jong#:3,4, [連名発表者] Harvey Whitehouse#:4
1:京都大学/九州大学/日本学術振興会, 2:九州大学, 3:オクスフォード大学, 4:コヴェントリー大学, 5:日本学術振興会

目的
 「宗教」の定義に関しては、様々な議論が行なわれているが、宗教を構成する一つの要素は、「空中浮遊する人物」や「死後復活する人物」というような、直感に反する超自然性である。宗教の認知科学において、超自然性の定義は我々がなにを「自然的」とみなすか、つまり、ある現象が我々の素朴物理学や素朴生物学の知識(Banerjee, Haque & Spelke , 2013; Gregory & Barrett, 2009) といったコア・ナレッジ (core knowledge; Spelke & Kinzler, 2007)に一貫するかどうかに依存する。近年、コア・ノレッジが乳児期で既に存在し、反直感的(超自然的)な動きをする物体が、自然的な動きをする物体よりも乳児(11ヶ月児)の注意を引き探索行動を生起させることから、人々が発達初期から直感に反する超自然的な物体・概念に注意を向けるバイアスを持つことが示されている(Stahl & Feigenson, 2015)。
 「超自然性」要素が伴う宗教は、社会階層を固定する、あるいは向社会性を高めるといった社会的機能を持つことがあげられている。特に、「超自然的な力が権力の源泉となる」ことは社会科学において古くから指摘されている(Weber, 1947/1922)。この主張は、近年民族誌データの量的分析から支持されており、多くの地域において超自然的な力を持つシャーマンといった宗教的指導者が司法・政治的役割を持つような社会的に優位な地位にあること(Singh, 2018)、宗教的儀式が社会階層を維持している(Watt et al. 2016)ことが示されている。本研究は、こうした超自然性と社会的優位性を持つバイアスを、人間がどの程度先天的に持っているか検討するため、先行研究において既に超自然性(コア・ナレッジおよびその違反)・社会的優位性(Pan, Birsh & Baron, 2017; Mascaro & Csibra, 2012, 2014)を心的に表象しているとされる11カ月以降の月齢を対象に実験を行った。



方法
被験児
乳児16名(11ヶ月から15ヶ月)
手続き
実験は(A)Familiarisation事象・(B)Test事象からなっており、それらは一連の動画で提示され、その間の参加者の注視パターン・注視時間をTobii TX300を用いて計測した。(A)Familiarisation事象では、2人のエージェントが超自然的あるいは自然的な方法で進行を妨げる障害(山・谷)を越えて目標(報酬の獲得)を達成する動画を提示した。超自然的なエージェントが障害を超える方法には2種類あり、障害物が山である場合は瞬間移動することで山を越え(連続性の違反)、谷があるときば空中浮遊することで谷を越えた。一方、自然的なエージェントが障害物を超えるときは、山・谷の斜面の登り降りをした。Familiarisation事象では、自然的・超自然的エージェントがそれぞれ2回ずつ交互に障害を超える映像を提示した。(B)Test事象では、自然的・超自然的のエージェントのどちらか一方が、社会的優位性が高いというイベントを提示した。具体的には、画面の両端に2名がと登場し、中央の報酬に両者が近づきそのうち一方が報酬を獲得する、つまり社会的優位性が高いという事象を提示した。なお、Test事象は、途中で参加者が目を2秒以上画面から逸らすか、40秒以上経過した場合、次の事象へと移った。これら、Familiarisation・Test事象を1つの試行で合計4回提示した。事象の種類(超自然・自然のどちらが社会的に優位か・違反するドメイン)についてはカンターバランスされた。もし、仮説通りに乳児が超自然的エージェントの社会的優位性が高いと心的に表象しているならば、Test事象において自然的エージェントが超自然的エージェントよりも社会的優位性が高いというイベントを見たとき、期待違反となるためより画面を長く注視することが予測される。こうした、仮説にそった予測が得られるのか実験的に検討した。



結果・考察 
 Test事象において、超自然的・自然的エージェントの社会的優位性が明確になった際の、乳児の注視時間をFigure 1に示した。2つのドメイン(連続性・物体接触)の違い、分析結果の詳細、結果のインプリケーションについては当日会場にて発表する。

詳細検索